2011年5月24日火曜日

注意制御と不安・抑うつ症状の関連

Self reported attentional control with the Attentional Control Scale: Factor structure and relationship with symptoms of anxiety and depression.
Ólafsson, R. P., Smári, S., Guðmundsdóttir, F., Ólafsdóttir, G., Harðardóttir, H. L., & Einarsson, S. M. (2011).
Journal of Anxiety Disorders Article in press.


【目的】
attentional control scale(ACS)の因子構造,
抑うつ・不安症状との関連を検討。

【方法】
調査協力者:大学生728名
(うち234名が男性,平均年齢24.7歳±6.6)

測定指標
①ACS:注意制御
②HADS:抑うつ・不安症状

【結果】
探索・検証的因子分析の双方で2因子構造
因子1:注意の集中(attentional focusing)
因子2:注意の切り替え(attentional shifting)
(RMSEA=0.059, SRMR=0.53, CFI =0.95)


不安症状の予測 (性別・抑うつを統制)
注意の集中の予測が有意
(β=-.22, p<.001)

抑うつ症状の予測(性別・不安を統制)
注意の切り替えの予測が有意
(β=-.10, p<.01)

2011年5月23日月曜日

不安障害と注意機能

Alterations of the attentional networks in patients with anxiety disorders.
Pacheco-Unguetti, A. P., Acosta, A., Marques, E. & Lupianez, J. (2011)
Journal of Anxiety Disorder, article in press, accepted manuscript.

【目的】
不安障害患者にattention network test interactions(ANT-I)を実施し,
注意機能のalertness, orienting, executive controlと不安障害の関連を検討

【方法】
実験参加者:26名の不安障害患者群(平均年齢 = 34.30, SD = 9.40, 女性9名)
      26名の健常統制群(平均年齢 = 35.15, SD = 10.72, 女性9名)
      (うつ病併発者は除外)
測定指標:
①STAI:特性・状態不安
②BDI:抑うつ症状
③ACS:注意制御
④ANT:注意機能

注意点→alerting音→spatial cue (上・下・なし)→矢印+フランカー(上・下)
被験者は矢印の向きが右か左か判断

alertness条件:alerting音があり・なし
orienting条件:cueと矢印の呈示位置
          同じ→valid
          異なる→invalid
          cueなし→neutral
congruency条件:矢印とフランカーの方向
同じ→congruent
異なる→incongruent

被験者間要因:群2(患者群・統制群)
被験者内要因:alertness2(有り・なし)
          orienting3(valid, invalid, neutral)
congruency2(congruent・incongruent)

従属変数=矢印の向き判断の反応時間と誤反応率


【結果】
特性不安・状態不安・抑うつ
患者群>統制群
注意制御
統制群>患者群

平均正反応時間:群×alertness×orienting×congruencyの分散分析

群×congruencyの交互作用有意
(F(1,23)=6.16, p= .0207)
→両群,incongruent条件がcongruent条件より反応遅い
(GAD群で両条件の差顕著)

群×congruencyの交互作用はalertnessが有意に調整
(F(1,23)=4.73, p= .0402)
→音が呈示されている時にGADはincongruent条件の反応がさらに遅くなる

群×orientingの交互作用有意
(F(2,46)=5.48, p= .0073)
→患者群は,invalid cueからターゲットへの注意の切り替えが困難


誤反応率:群×alertness×orienting×congruencyの分散分析
orientingとcongruencyの主効果有意
(orienting: F(2,44)=4.12, p=.0227)
(congruency, F(1,22)=7.92, p= .0101)

群と条件の交互作用はなし

相関分析:
特性不安とinterference, orientingに有意な正の相関 (r=.60, .53)
状態不安, 抑うつ症状とinterferenceに有意な正の相関 (r=.63, .58)
注意制御とinterferenceに有意な負の相関 (r=-.49)
alertnessはどの指標とも相関なし。

※alertness=absence-presence (neutral条件のみで), interference=incongruent-congruent


不安障害患者は,exectiveな注意の制御が困難。ディストラクターに向けた注意からターゲット刺激に注意を切り替えるのが困難。とどのつまり,注意の自発的制御が困難。




GADは中立刺激から注意を切り替えるのが苦手?

Making someting out of nothing: neutral content modulates attention in generalized anxiety disorder.
Olatunji, B. O. Ciesielski, B. G., Armstrong, T., Zhao, M. & Zald, D. (2011).
Depression and anxiety, 28, 427-434.

【目的】
脅威刺激への注意バイアス研究で結果が一致していない要因の一つに,反応時間を指標とした課題が用いられていたことがある(情動刺激への反応時間は注意に関係なく遅延するため)。また,単語刺激を用いてたため環境的妥当性がとぼしかった可能性あり。本研究では,反応時間を指標としない課題(RSVP)かつ,写真刺激を用いて,GADの注意バイアスを検討。脅威刺激の同定の速さor脅威刺激からの注意の切り替えの速さのどちらがGADと関連するか。また,GADと注意バイアスの関係を自発的な注意制御能力が媒介するか検討。


【方法】
実験参加者:成人60名(GADの診断基準満たす群30名,健常統制群30名)
除外基準:双極性障害, 薬物依存, ADHD, 発達障害,精神遅滞,神経学的疾患あり
測定指標

①ACS:自発的な注意制御

RAPID SERIAL VISUAL PRESENTATION TASK
17枚の写真が100ms間隔でバババと呈示される。
連続呈示される写真の中にターゲット刺激があり,
①ターゲット刺激があったか(detection)
②ターゲット刺激が左右どちらに傾いてたか (accuracy)
を回答。
ターゲット刺激呈示前にディストラクター刺激が呈示され,
そのディストラクター刺激が,ターゲット刺激の検出に
影響を与えるか?

要因
群:GAD群,統制群
distractorの種類:disgust, fear, erotic, neutral
distractorとターゲットの呈示間隔:200ms or 800ms
※200ms→ディストラクターの同定の速さを反映
 800ms→ディストラクターからの注意の切り替えの速さを反映
従属変数:accuracy


【結果】
群,間隔,種類の主効果有意
→GADは全般的にaccuracyが低い
→間隔200msでaccuracyが低い
→種類によってaccuracyが異なる


群×種類の交互作用有意(F(3, 174)=2.88, p<.04, partialη2=.05)
→fearとneutral条件で,統制群はGAD群よりaccuracy高い
→neutral条件のaccuracyを統制した場合,fear条件での群間差は有意じゃなくなった。

→GAD群では,fearとneutral条件でaccurarcyに差なし。
disgust条件とeroticの条件にaccuracyの差あり (p<.07:disgustの方が正確)
 disgust, erotic, fearの各条件でaccuracyに差あり(ps<.01:fear>Disgust>eroticの順に正確)・

→統制群では,neutral条件が,他のディストラクターよりaccuracy高い。
 各条件は各々有意差あり (Neutral>fear>disgust>eroticの順で正確)


間隔×種類の交互作用有意(F(3, 174)=61.60, p<.001, partialη2=.52)
→間隔200msの場合に種類の主効果有意
→erotic条件は,他条件より有意にaccuracy低い(ps<.001)
→disgust条件は,fearやerotic条件より有意にaccuracy低い(ps<.001)
→fear条件は,neutral条件より有意にaccuracy低い

→間隔800msの場合もディストラクターの種類の主効果有意
→erotic条件は,disgutやfear条件より有意にaccuracy高い (neutralとは差なし)
→disgust条件は,neutralやfear条件より有意にaccuracy低い
→fear条件は,neutral条件より有意にaccuracy低い


群×間隔の交互作用,群×間隔×ディストラクターの種類の交互作用なし



媒介分析
①群→ACS(注意制御)→fear条件のaccuracy (sobel test:z=0.92, p=.32)
②群→ACS(注意制御)→neutral条件のaccuracy(sobeltest:z=2.21, p<.03)
(群→ACS:β=-.61, p<.01, ACS→accuracy:β=.34, p<.01, 群→accuracy:β=-.19, p=n.s.)
 →ACSが群とneutral条件のaccuracyの関係を完全媒介
 


※GADは800msと200msのいづれにおいてもaccuracyが低いので,注意制御全般に欠損がある可能性あり。
 GADは中立刺激から注意を切り替えるのが困難。中立刺激の情動価を高く評価してしまう?環境内にsafty  cueが存在してても脅威同定システムの抑制が困難?脅威刺激への注意の問題よりも,高次の注意制御の悪 さが問題?

 環境内のsafety cueの存在うんぬんに関しては,GADが罰・強化刺激の弁別苦手という研究知見に通ずるものがある。刺激の情動価評価の問題が心配の全般化につながっているのか?しかし,中立刺激への注意の切り離しが早いという知見もあり,やはり注意バイアス研究の結果は一貫しない模様。

2011年5月21日土曜日

不安・抑うつへの診断横断的治療のレビュー

Efficacy of transdiagnostic treatments: a review of published outcome studies and future research directions
McEvoy, P. M, (2009).
Journal of Cognitive Psychotherapy: An International Quarterly, 23, 20-33.

【目的】不安障害に対する診断横断的な集団療法の効果のレビュー

統制群なし:
Erickson (2003)
対象:不安障害患者を対象に12週の集団認知行動療法(統制群無し)
内容:心理教育,認知再構成法 (共通信念と疾患固有信念),個別の疾患に応じたエクスポージャー。
効果:治療前後で有意な改善 (指標はGSQ)。6ヶ月後のフォローアップまで効果維持。

Gaecia (2004)
対象:不安障害患者を対象に8週の診断横断的集団治療 (統制群なし)
内容:主に心理教育的な介入+リラクセーション
(心理教育のトピック:疾患の理解,生理的症状のコントロール,思考の歪み,脅威への闘争,コーピング,発生要因と維持要因の理解,社会的圧力への対処)。
効果:治療前後で有意な改善(参加者44名のうちデータが得られた19名分のデータ:指標は主観的な不安,抑うつ,苦痛)。治療効果は1年後まで維持(compliterがdropout者と比べて)

McEvoy & Nathan (2007)
対象:不安障害・単極性のうつ病患者を対象に診断横断的集団治療 (未治療統制群・プラセボ統制群あり)
内容:心理教育,Clamingテクニック,行動活性化課題,エクスポージャー,認知再構成法
効果:個別の疾患に特化した治療と同等の効果はあり (BAIは同等,BDIは個別の疾患に特化した治療より高い効果)。パニック障害患者により高い効果あり。

Manning et al. (1994), Hooke & Page (2002)
対象:不安障害・気分障害・その他の疾患(統合失調症等)を対象に2週間のintensiveな集団認知行動療法
内容:セルフモニタリング,信念に対する行動実験,現実的な目標設定,アサーショントレーニング,心理教育,ストレスマネジメント,生活習慣の検討,リラクセーション,重要他者の為のセッション。
効果:治療前後とフォロアープで有意な改善(指標:BDI, STAI, 自尊心尺度,ローカスオブコントロール尺度)。治療前の自尊心は不安障害患者の治療後の不安を予測,治療前の外的統制はうつ病患者の治療後の抑うつを予測。


エビデンス (統制群あり)
Norton & Hope (2005)
対象:不安障害患者に対し診断横断的治療
内容:心理教育,認知再構成法(疾患固有・疾患共通の信念),暴露反応妨害法
効果:clinician-rateの重症度,恐怖・回避の階層が未治療統制群より有意に改善。不安とストレスの自己報告指標には有意な改善なし,併存する抑うつ症状に有意な改善あり。疾患ごとに効果に差なし。

Erickson, Janeck, & Tallman (2007)
対象:152名の不安障害患者を対象に11週の集団認知行動療法群(未治療統制群あり)
内容:Erickson (2003)と同様
効果:未治療統制群より有意に改善 (指標はBAI) (パニック障害が特に改善)。

Norton & Philipp (2008)のメタ分析:
不安障害に対し,診断横断的治療は高い効果あり(群間効果サイズ:d=1.29)

※概して,診断横断的治療は不安障害の改善に効果あり。でも,統制研究がもっと必要。加えて,診断に特化した治療との効果比較も必要。