2011年4月29日金曜日

アルコール依存症の治療におけるcravingへの介入の重要性

Moderating effects of craving intervention on the relation between negative mood and heavy drinking following treatment for alcohol dependence.
Witkiewitz, K., Bowen, S., & Donovan, M. D. (2011),
Journal of Consulting and Clinical Psychology, 79, 54-63.

【目的】
①アルコール依存に対する16週間の行動的介入(CBI)のネガティブ気分と飲酒量の関連の検討。
②craving介入を受けることによって,ネガティブ気分と飲酒量の関連が抑制されるかどうか検討。
③抑制効果がcravingの変化(介入ではなく自記式質問紙の変化)によって媒介されているのかを検討。
④craving介入の効果が1年後のフォローアップまで維持されている化の検討。

【方法】
研究協力者:1381名が11の研究から集められた。COMBINE(Combined Pharmacotherapies and Behavioral Interventions for Alcohol Dependence)治療が16週間行われた。最終的に,CBI(behavioral intervention)を受け,cravingモジュールを受ける機会を得た治療に割り当てられた776名のデータを分析対象とた。
調査材料:①飲酒結果:がっつり飲んだ日(男性は5杯,女性は4杯以上)について,治療前30日と治
        療期間中の16週間(Timeline Followback)と治療後12ヶ月間の飲酒(the Form-90
interview,Miller & Del Boca, 1994)。
       ②短縮版POMS:ネガティブ気分。
       ③The Obsessive Compulsive Drinking Scale(Anton et al., 1996):飲酒関連思考,飲酒衝        動,思考を拒絶する能力。

【手続き】
CBIには,①クライエント変化のための動機づけを構築する動機づけ面接,②機能分析と治療プランの作成,③クライエントの状況とニーズによって個々に決まる(Assertion Skills Training, Communication Skill Training, Coping with craving and urge, Drink Refusal and Social Pressure Skill Training, Job Finding Training, Mood Management Training, Mutual Help Group Involvement, Social and Recreational Counseling, Social Support for Sobrietyから選択)。ちなみに,Coping with Craving and Urge(Bowen et al., 2010を参照)のモジュール(以下craving介入)を432名(半分以上)が受けた。

【結果】
記述統計量等に関して
craving介入を受けた人は,受けてない人と比較して治療後の治療期間中の飲酒量が少なく,ネガティブ気分も低かったが,cravingの評価に差異なし。ベースラインにおいてcravingを受けた人は,受けてない人と比較していくつかの変数において差異があったので,群間で比較をする際には共変量とした。

治療期間中のネガティブ気分と飲酒量の関連に関して
飲酒量の変化は,ネガティブ気分の潜在因子の増加によって予測(切片:B(SE)=0.20(0.09), p=.04,傾き:B(SE)=5.78(0.80), p<.001)。
→アルコール依存症においてネガティブな気分は,リスクとなる(よく言われていることではあるが…)。

群間におけるModeration analysis
moderation analysisの結果,アルコール摂取の予測に関して,ネガティブ気分×cravingモジュールを受けること(交互作用)が有意(B(SE)=-.5.93(1.61), p<.001)で大きな抑制効果(f2=0.92)。
治療を受けなかった人々は受けた人々よりネガティブ気分と飲酒の関連が強い。
→craving介入を受けることで,ネガティブ気分時に飲酒する可能性が低減。
また,dose-response effectから,回数を重ねるほど,関連が弱くなることが示された。
→craving介入を受けるほど,ネガティブ気分時に飲酒する可能性が低減。

治療期間中のcravingに関して
治療期間中のcravingの変化は,craving介入を受けたこと(B==-0.16),ネガティブ気分(B=1.08),ネガティブ気分×介入(B=-0.24)によって予測される。
→craving介入を受けると,cravingそのものも低減。
 ネガティブ気分が高いとcravingは高い。

群間の治療後のアウトカムに関して
治療期間中の自記式のcravingの変化は,治療後1年間のネガティブ気分と飲酒との間を媒介(B(SE)=-0.51(0.13), 95%Cl=-0.77~-0.25)。
→cravingの(主観的な)変化(質問紙)が,治療後1年間のネガティブ気分時の飲酒を低減させる。

群内の分析に関して
craving介入後のcravingの水準は,治療期間(95%Cl=0.28~0.98)およびフォローアップ期間(95%Cl=1.05~3.80)のネガティブ気分と飲酒の水準を媒介していた。
→craving介入後において,cravingの強さが強いとネガティブ気分時に飲酒を引き起こす可能性。その可能性は,治療期間中よりもフォローアップ期間に高い。

※cravingに対していかに取り組むのかがアルコール依存症治療においては重要。
また,776名のうち432名にcraving介入が用いられたことを考えると,cravingへの介入は多くの依存症患者に必須の治療構成要素だといえる。

※ここで行われているCoping with Craving and Urge(Bowen et al., 2010を参照)モジュールの中にはurge surfingと呼ばれるマインドフルネス技法が用いられている。

現在,リスク状況下でのcravingを測定する尺度(ギャンブルバージョンとアルコールバージョン)を作成している私にとって,自身の研究を後押しする研究の1つである。


2 件のコメント:

  1. すごい研究。とても勉強になりやした。

    介入効果の予測を,moderationとmediationでと。
    なるほど。確かにそういう使い方もできますよね。

    Bowenのプログラムでも,マインドフルネスは,
    あくまで複数の介入技法の一つなんですね。

    マインドフルネスが何に効いてるか。
    マインドフルネスのどういう側面がその効果を生んでるのか。
    今はそういうところの検討が随分熱心に行われ始めているようですね。

    ご存知かもしれませんが,
    mindfulnessという雑誌が最近刊行され始めています。

    よこさんの今後の研究を楽しみにしています。

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  2. 匿名さん

    コメントありがとうございました。
    mindfulnessという雑誌の名前は知っていましたが,依存症関連の雑誌を主に読んでいましたので,やはり様々な症状や疾患に対するmindfulnessの有効性も把握しておかないといけませんよね…
    ご指摘ありがとうございます。

    依存症の治療においてはcravingへの対処が重要です(Marlatt & Gordon, 1985)。しかし,cravingに対する既存の対処スキルの有効性に関して研究結果は一致しておらず,まだまだ改善の余地があるポイントであるといえます。
    したがって,そこへの対処の1つとしてmindfulnessの技法を取り入れていくことが行われ始めたのではないかと思われます。

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