2011年12月30日金曜日

抑うつにおける気分と反すうとの相互作用

The interaction of mood and rumination in depression: Effects on mood maintenance and mood-congruent autobiographical memory.
Wisco, B. E., & Nolen-Hoeksema, S.
Journal of Rational-Emotive Cognitive-Behavior Therapy, 27, 144–159.  (2009).

【Purpose】
1. 抑うつ者は,反すう前にポジティブ気分誘導を受けると,ネガティブな記憶の想起が少なくなるか?
2. 非抑うつ者は,反すう前にネガティブ気分誘導を受けると,ネガティブな記憶の想起が多くなるのか?
3. 反すう前のポジティブ気分誘導は,抑うつ者における反すう後のネガティブ気分の悪化に対して緩衝効果を有するか?
4. 抑うつ者は,記憶想起の手がかり(Positive, Negative, Neutral)の情動価にかかわらず,ネガティブな記憶を想起するのか?
5. 非抑うつ者は,記憶想起の手がかりの情動価に応じた記憶を想起するのか?

【Method】
1. 対象者
・抑うつ者(BDI≧16点):Positive気分誘導群20名,Negative気分誘導群20名
・非抑うつ者(BDI≦9点):Positive気分誘導群22名,Negative気分誘導群21名

2. 気分指標PANAS-X

3. 気分の誘導:映像による気分誘導

4. 反すうの誘導:イメージ課題と称して,8分間,自分自身の感情,今の感情の原因や結果に注目するよう教示(Nolen-Hoeksema & Morrow, 1993)

5. 記憶課題Autobiographical Memory Task。“Hopeless”,“bread”,“happy”(Jones et al., 1999)などのNegative,Neutral,Positiveという3種類の情動価の手がかり語によって,自伝的記憶を想起させた。手かがり語は合計18個使用し,18の記憶を抽出した。
抽出された記憶は,2名の独立評定者によって,Negative度を7件法で評定してもらった。

6. 手続き
 ①PANAS-X回答(baseline)
  ↓
 ②映像視聴(気分誘導:Positive or Negative)
  ↓
 ③PANAS-X回答(気分誘導後)
  ↓
 ④反すうの誘導
  ↓
 ⑤PANAS-X(反すう誘導後)
  ↓
 ⑥自伝的記憶課題
  ↓
 ⑦PANAS-X(記憶課題後)

Results & Discussion
1. 気分:
群(抑うつ・非抑うつ)×条件(Positive気分誘導・Negative気分誘導)×測定段階(baseline,気分誘導後,反すう誘導後,記憶課題後)の3要因ANOVAを実施
 → 条件に応じた気分の変化が見られるも,反すう誘導によってbaselineの水準に戻る。
 → 記憶課題による気分変化は見られない。

2. 記憶
群(抑うつ・非抑うつ)×条件(Positive気分誘導・Negative気分誘導)×手がかり語の情動価(Positive,Negative,Neutral)の3要因ANOVAを実施
 → 手がかり語の主効果が有意・・・Negative>Positive,Neutral
 → 群の主効果が有意・・・抑うつ者>非抑うつ者
 → 条件の主効果は見られず

※まとめると・・・

1. 抑うつ者は,反すう前にポジティブ気分誘導を受けると,ネガティブな記憶の想起が少なくなるか? → ×

2. 非抑うつ者は,反すう前にネガティブ気分誘導を受けると,ネガティブな記憶の想起が多くなるのか? → ×

3. 反すう前のポジティブ気分誘導は,抑うつ者における反すう後のネガティブ気分の悪化に対して緩衝効果を有するか? → 

4. 抑うつ者は,記憶想起の手がかり(Positive, Negative, Neutral)の情動価にかかわらず,ネガティブな記憶を想起するのか? → 

5. 非抑うつ者は,記憶想起の手がかりの情動価に応じた記憶を想起するのか? → 

  • 抑うつ状態は,Negative mood,Negative memoryを予測する。
  • 記憶のNegative度における(特性的な)depressive moodの効果は,手がかり語の情動価にかかわらず確認された。
  • 特性的な抑うつ状態は,手がかり語の感受性に影響しない。
  • 先行研究では,情動経験は反すうの効果に作用することが示されているが(Morrow & Nolen-Hoeksema, 1990; Rusting & Nolen-Hoeksema, 1998),本研究の結果は,抑うつ者における慢性的な抑うつ気分の経験が,一時的な情動経験よりも,気分や記憶に与える影響が大きいことを示唆している。

1 件のコメント:

  1. 3要因の分散分析を完結にまとめていただきありがとうございます。正直3要因の結果の解読にあまり自信がなかったのでたすかりました。
    そこで質問なのですが,抑うつ者がネガティブな記憶を想起する,非抑うつ者が想起の手がかりの情動価に応じた記憶を想起するといった点は,そこまで新しくないのかなとも感じますが。
    この論文の新しいところは,慢性的な抑うつが一時的なものよりも影響が大きいというところと解釈してもよろしいでしょうか?この分野は素人なのでご返答お願いします。

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