2011年6月13日月曜日

uncuedパニック発作と体験の回避・感情制御の関連

Emotion Regulation Difficulties Associated with the Experience of Uncued Panic Attacks: Evidence of Experiential Avoidance, Emotional Nonacceptance, and Decreased Emotional Clarity.
Tull, M. T., & Roemer, L. (2007).
Behavior Therapy, 38, 378-391.

【目的】
パニック発作は様々な不安障害で見られるが,手がかりなしのパニック発作 (uncued panic attack)はパニック障害に特異的。パニック障害の発生・維持に関与する認知的脆弱性は明らかにされているが,感情の認識困難性や感情の機能的な利用・適応的な制御方略などの感情制御要因とuncuedパニック発作の関連は不明確。uncuedパニック発作と感情の制御困難性(感情の受容困難・体験の回避・感情の気づき欠如・感情の明確性)の関連を相関研究・実験研究の両者で検討。
【方法:研究1(質問紙研究)】
調査協力者:大学生407名のうちuncuedパニック発作経験者 (PAQによりスクリーニング) 91名(女性72名,男性19名, 平均年齢=.23.62±6.88)とパニック発作経験のない91名(統制群:女性71名,男性19名,平均年齢=22.81±5.65)

測定指標
PAQ:uncuedパニック発作(※cuedパニック発作も測定可能)
DERS:感情反応の受容欠如・感情の気づき欠如・感情の明確性欠如(※目標志向行動の実行困難,衝動制御困難・効果的な情動制御方略のaccesibilityの欠如も測定可能)
AAQ:(苦痛を伴う感情や思考)体験の回避
DASS:抑うつ症状(※不安症状とストレス反応も測定可能)

【結果】
uncuedパニック発作群は,統制群より有意に抑うつ症状が高かった
→抑うつ症状を共変量として,群を独立変数,「体験の回避」「感情の明確性の欠如」「感情の受容欠如」「感情の気づき欠如」を従属変数とする多変量共分散分析

uncuedパニック発作群は,統制群より体験の回避・感情の明確性の欠如が有意に高かった

uncuedパニック群で,各従属変数間に中程度の正の相関あり (r=.33~.61※感情の受容欠如と感情の気づき欠如間のみ有意な相関なし)

感情の気づき欠如のみ内的整合性低い(α=.57)。そのため有意差がみられなかったかも。

【方法:研究2(実験研究)】
実験参加者:研究1の参加者のうち実験参加への協力が得られた17名 (女性15名,男性2名,平均年齢23±6.16歳),17名 (女性15名,男性2名,平均年齢22±3.13歳)。

測定指標
①SUD:主観的不安
②LEAS:感情の気づきと明確化
③LIWC:映像刺激に対する情動反応を測定
  ※見た刺激について記述してもらい,その内容をテクスト分析し,感情(快・不快)後利用頻度を算出
④感情反応を回避・逃避する感情制御方略に関する質問項目
⑤HR:心拍
⑥SC:皮膚コンダクタンス

快映像 (映画パッチアダムスの1シーン)
不快映像(映画危険な情事の1シーン)

手続
ベースライン測定(①・⑤・⑥)→快映像視聴(⑤・⑥測定)→①・②・③測定→ベースライン測定(①・⑤・⑥)→不快映像視聴 (⑤・⑥)→①・②・③・④測定

【結果】
SUD・HR・SC
-ベースラインのSUD・HR・SCに群間差なし
-映像視聴後のSUD・HR・SCに群間差なし(映像の種類に関わらず)
(ベースラインのSUD・HR・SC,抑うつ症状を統制しても同じ結果)

LEAS
-映像の快不快に関わらず,群間差なし

LIWC
-不快映像刺激への感情反応(LIWC:映像に関する記述中のネガティブ語・ポジティブ語の使用頻度) に群間者なし
-快映像刺激への感情反応に群間差あり(F(1, 32)=5.80, p<.05)
(uncuedパニック発作群が有意に,ネガティブ語の使用頻度高い,ポジティブ語の使用頻度に差なし)
(ベースラインのSUDと抑うつ症状を統制しても有意)

感情制御方略に関する質問項目
下の2項目は,uncuedパニック発作群が統制群より有意に高い
-体験している感情を止めるためにこの状況から離れたい(F(1,32)=4.92, p<.05, η2p=.13)
-体験している感情を変えるよう試みるor考える(F(1,32)=4.61, p<.05, η2p=.13)

※一見,体験の回避や感情制御方略という新たな要因がuncuedパニック発作に関連することを示しているようにも思えるが,ここで,出てきた変数が,既存のCBTで想定されている回避行動とは違う概念として位置付けられるかが疑問。そして、効果サイズの低さから,症状の維持に強く寄与するかも疑問。さらに,不安感受性や身体感覚の破局的解釈という既にエビデンスの蓄積されている要因を統制しても症状の維持に独自の効果を持つのか疑問(効果サイズ小さいが故)。この研究で示された感情制御系の変数の増分妥当性を示す知見が欲しい。パニック障害に感情制御系の変数を新たに導入するのには少し無理があるか?

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